化学物質過敏症とは？
化学物質過敏症（CS=Chemical Sensitivity）は人により反応する化学物質も症状も様々なため、前知識のない人へ説明が困難なこともあり、無理解や差別、病態の矮小化など二次被害にも晒されやすい病気です。
悪化すると反応する化学物質の種類と体調不良の頻度が増加し多種化学物質過敏状態（MCS=Multiple Chemical Sensitivity）となり、仕事や学業だけではなく生活全般にも多大な支障が出るようになります。
日本医師会【健康ぷらざNo.550】2022年01月05日 化学物質過敏症
日本医師会【健康ぷらざNo.508】2018年10月05日 香料による新しい健康被害もー化学物質過敏症ー
当事者としては実体験があることで上記の資料でも理解できるのですが、そうではない人には情報が足りないかも知れません。
こちらのページでは実際に化学物質過敏症を発症してみるまで知らなかったことを中心に書いていきます。
発症するとどんな支障がある？
いつどんな体調不良に陥るかわからない
次の予定があろうとも予測のつかない体調不良に襲われます。
体調不良の一例は後ほど列挙します。
自分自身も医師も化学物質過敏症だと気づきにくい
自身の症状をアレルギー、喘息、不定愁訴などと思い外来（アレルギー科、内科、小児科、皮膚科、耳鼻科、眼科など）を受診し、化学物質過敏症の知見のない医師が誤診したまま間違った治療に繋がることがあります。
薬も化学物質のため、化学物質過敏症発症者への投薬は細心の注意が必要です。
化学物質過敏症を診断できる病院へたどり着くのも容易ではない
化学物質過敏症を診断できる病院は国内に数か所しかなく、診察予約をしても数カ月先の予約しかとれないことが多いです。
化学物質過敏症を診断できる病院へ行く頃にはすでに、街や交通機関の環境からダメージを受けやすい状態になっており、病院までの移動が大変です。
病院に到着してからも、院内の化学物質に反応してしまうため病院に入れないという事態もあり得ます。
化学物質過敏症は障害者手帳交付の対象ではなく障害年金の受給も難易度が高い
なんとか「化学物質過敏症」と診断がついても重症度により、症状や日常生活の困難さは様々です。
学業や就業が困難な状況になっていようとなかなか福祉に繋がることができません。
障害年金を申請する際に必要な診断書には下記のような区分があります。
一般状態区分表
ア 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など
ウ 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50％以上は起居しているもの
エ 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50％以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
オ 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
化学物質過敏症は、普段は無症状や軽度でも日常生活に困難をきたす場面には頻繁に遭遇するため、この区分では計れないほど辛い状況になってしまっている患者もいます。
毎日いつでもどこへでも外出できるというような状況でもなく、通勤があり人が集う場所での就業は難しく、一定水準を保った生活をするための選択肢は著しく限られていたり、たくさんの機会を損失するような状況なんだﾆｬ
化学物質過敏症の障害年金申請について 参考
化学物質過敏症、線維筋痛症、脳脊髄液漏出症、慢性疲労症候群の診断書の記載例や認定事例等｜日本年金機構
化学物質過敏症で療養中の皆様へ 国民年金・厚生年金保険による障害年金のご案内
確立された治療法がない
2024年現在、化学物質過敏症には投薬などの治療法がなく、以下のような対処をとることになります。
- 多くの化学物質が使用されている現状、空気中に混ざったものを「避ける」のは非常に困難
- 外出時に高機能マスクや防護具のようなものを着用することで暴露量を減らすことはできても全てを避けられるわけではない
- 「少しマシになったかも…？」程度の効果しか得られないこともある
- 家族の無理解がハードルになることもある
- 膨大な品数のトライアル＆エラーを試すこともあり、体力的なことに加え精神面でも費用面でもかなりの負担となる
いろんな場面で「どうしようもなさ」に遭遇することを身をもって知っているから、これ以上の発症者を増やしたくなくて懸命に啓発活動をしている当事者たちもいるんだﾆｬ
2024年現在、ウェブ記事や書籍で「化学物質過敏症は脳過敏」説、「化学物質過敏症は脊椎疾患→投薬で治療できる」説なども散見されるけど、それらは実際に香害に悩まされている化学物質過敏症の実態と違うのでは？と感じている当事者も多いんだﾆｬ
どんな人がなる？
日本国内において、化学物質過敏症を診断できる病院が非常に少なく診断済みの人も少ないため、珍しい病気と思われがちですが、実際の患者数は予備軍を含め潜在患者数は1000万人いるのではという説があります。
13人に1人は、化学物質により何らかの症状が出ているのではないか…ということです。「明日は我が身」ということにもなりかねない病気です。
化学物質過敏症を診断済みの人の傾向として、
・男性より女性が多い
・年齢は30-50代が多い
・子供の頃から喘息など呼吸器系疾患、アトピーなど皮膚疾患、その他アレルギー症状が出やすかった人が多い
などがあります。
化学物質過敏症を発症するとこんなものにも反応するように
発症前から香害と副流煙に反応しやすいことを自覚している人は多いです。
発症前からすでに反応がある人もいますが、香害と副流煙以外にはこのようなものや場所に反応しやすくなることがあります。
- 飲食物
・農薬など薬剤が残存したもの
・合成食品添加物（調味料、甘味料、香料、調整剤、酸化防止剤など）
・インスタント食品 ・袋菓子や駄菓子 ・コンビニやスーパーのお弁当
・スパイスや香辛料 ・嗜好飲料 - 日用品や化粧品
・台所洗剤 ・食品ラップ ・食品保存容器
・入浴剤 ・ボディケア剤 ・ヘアケア剤 ・化粧品 ・マニキュアや除光液
・芳香剤 ・香水 ・生花 - 文房具類
・冊子 ・圧着はがき ・クラフトテープ ・段ボール ・筆記用具 - 建材や家具、家財など（シックハウス症候群）
・有機溶剤、防腐剤、防虫剤、殺虫剤、接着剤、難燃剤など
・暖房器具 ・カーペット ・衣類 - 生物由来の成分
・カビ
- ホームセンター
- ドラッグストア
- フレグランス商品売り場
- ガソリンスタンド、レンタカーショップ、タイヤショップ
- 工事・建築・修繕現場
- 病院
- スーパー
- パチンコ店、喫煙可能な場所
- 除草剤や農薬を散布した場所
- 野焼きやゴミを焼却している場所
- 幼稚園・保育園・学校・オフィスなど人の多いところ（シックオフィス、シックスクール）
- 換気の悪いところ
- 煙突や排気口の近く
日常生活で、例えばこんな体調不良がランダムに起きるようになります。
体調不良の一例
- 【香害】買い物中に洗剤売り場の前を通ったら
…眼振からのめまい、記憶力が低下し会計が済んだものを置き忘れそうに - 【副流煙】道を歩いていて、歩きたばこの人の副流煙を吸い込んでしまい
…激しい咳と喘鳴が始まった - 【香害など複合】道を歩いていて、通行人から柔軟剤や洗剤の香り、車の排気ガス、ガソリンスタンドのにおいを次々と嗅いでしまい
…めまいと全身の脱力からふらつくため、冬の冷たいベンチの上で休み、歩けるようになったころには体が冷え切ってしまっていた - 【食品添加物】スーパーで買ったお惣菜を食べたら
…顔の痛みと下痢がおき、腹痛が一晩続いた - 【薬の副作用】これまで飲んでも問題なかった処方薬を飲むと
…胃痛や嘔吐、ふるえなどの副作用が強く出るようになった - 【化粧品】これまで使えていたはずの化粧品を久しぶりに使ったら
…顔全体が熱をもち、一回り大きくなるほど腫れた - 【香害など複合】保護者会活動で複数の家から回収したアンケート用紙の集計作業をしていたら
…頭痛、吐き気、ブレインフォグ、動悸、手のふるえがおき、脱力し寝込んだ - 【香害】こどもの保育園で移香してしまったお昼寝用の布団を洗っていると
…頭痛、吐き気、胃液逆流、脱力から寝込み、数時間が経過してから下痢と腹痛 - 【香害】帰宅した家族の服に移香があり、その服のまま家の中を歩き回られると
…頭痛、吐き気、胃液逆流、脱力から寝込む、さらに家具にも移香してしまった - 【除草剤】道を歩いていて除草剤を撒いている横を通った後から
…腹痛と下痢が何日も続いた - 【接着剤など】引っ越し準備で大量の新品段ボールとクラフトテープを部屋に持ち込んだら
…段ボールが運び出される日まで微熱と倦怠感など風邪症状が続いた - 【燃焼ガス】毎年、冬になると頭重感、胃痛、背中から腰にかけての痛みが続く
…灯油暖房器具を使わない生活をするようになったら解消
一挙手一投足がロシアンルーレットの引き金を引くかのような毎日なんだﾆｬ
化学物質過敏症の人たちのために何をしたら良いのか
化学物質過敏症の人たちが生存していくためには、みなさんの環境への配慮と協力が必要です。
香料など揮発性の高い化学物質の使用削減と換気で化学物質過敏症の症状が楽になることが多いです。
そしてその対応は周囲にいる人たちの健康を守ることにも繋がるはずなんだﾆｬ！
化学物質過敏症について、もっと詳しい情報を！という方には、こちらもオススメです！
冒頭の資料の出展
医師や研究者による取材や記事など
全国保険医団体連合会【2022・No.1366 月刊保団連 3】
